001 『行く水のほとりに一葉の巻』
春芳・周天・茄言 三吟歌仙
『行く水のほとりに一葉の巻』
《初折 表》
秋 ① 行く水のほとりに一葉舞う紅葉 春芳
秋 ② 色に添えられ澄んだ瀬のおと 周天
秋・月 ③ いずれ酔う月に引かれる干と満 茄言
雑 ④ 離れる船の汽笛切なく 春芳
雑 ⑤ しがらみを断ちて気ままな一人旅 周天
雑 ⑥ 夜空で光る星が道連れ 茄言
《初折 裏》
夏 ⑦ 寄港地でアイスクリーム買う乙女 春芳
恋 ⑧ ヘップバーンの面影かすめ 周天
恋 ⑨ ベスパ乗せほのかな香り背にまとい 茄言
恋 ⑩ スペイン広場夢のあとさき 春芳
雑 ⑪ 見えぬ敵に医療従事者命懸け 周天
雑 ⑫ マスクの効果テスラ株上げ 茄言
冬・月 ⑬ 被災地の瓦礫を照らす蒼き月 春芳
冬 ⑭ しばしの温みひとり燗酒 周天
雑 ⑮ ありのまま悲愴第二に包まれて 茄言
雑 ⑯ 過ぎ去りし日々音に溶かして 春芳
春・花 ⑰ これからぞ六十五歳花の宴 周天
春 ⑱ 入学再び小中高 茄言
《名残折表》
春 ⑲ アルバムをたまさかめくる春の宵 春芳
雑 ⑳ 同じところを行きつ戻りつ 周天
雑 ㉑ 時経ても笑ってくれそうな亡き恩師 茄言
雑 ㉒ 古文漢文あやなす補習 春芳
雑 ㉓ うなずきと心のうちは別物で 周天
雑 ㉔ 聞いているふり技と身につけ 茄言
夏 ㉕ 調律中ピアノに止まる揚羽蝶 春芳
夏・恋 ㉖ 避暑の木陰に秘めた出来事 周天
恋 ㉗ 見つめれば瞳の奥に葉が揺れる 茄言
雑 ㉘ しばし佇むジャズドラマー 春芳
秋・月 ㉙ 誰を待つ端二重なる月出でて 周天
秋 ㉚ 虫の音止めるスマホ鳴る音 茄言
《名残折裏》
秋 ㉛ 行く秋に一曲献じショパン弾く 春芳
雑 ㉜ つらいレッスンそぶりに見せず 周天
雑 ㉝ 鍵盤の白黒ごとく生きられぬ 茄言
春 ㉞ 悩み悩んで春天来了 春芳
春・花 ㉟ 陽光を集めて染まる花の色 茄言
春 ㊱ 友よ挙ってさあ野に遊べ 周天
自 令和二年 八月二十五日
至 同 九月 一日