三吟歌仙         

046 『若葉打つにわか雨の巻』

      茄言・周天・春芳 三吟歌仙 46
       『若葉打つにわか雨の巻』


《初折 表》
夏    ① 若葉打つ音に駆け出すにわか雨     茄言

夏    ②  甲飾りの似合う太眉         周天

雑    ③ 白球の行方追いたるドームにて     春芳

雑    ④  コントレールが空に引かれる     茄言

秋・月  ⑤ 満月に漆黒の馬輝いて         周天

秋    ⑥  秋の狩場に向かう侍         春芳

  《初折 裏》
秋    ⑦ 銀杏の実落ちざま払う秘剣見せ     茄言

雑    ⑧  密書を懐中深くしのばす       周天

雑    ⑨ 旅先のモンマルトルで読むレター    春芳

夏・恋  ⑩  求婚決めたパリの夕焼け       茄言

恋    ⑪ 指に触れリングのサイズ推し計り    周天

恋    ⑫  心に痛い甘い想い出         春芳

冬・月  ⑬ 廃校の廊下を照らす月冴えて      茄言

冬    ⑭  石炭くべる達磨ストーブ       周天

雑    ⑮ ガンジスの辺の寺で座禅する      春芳

雑    ⑯  氷河の水にけがれ背負わせ      茄言

春・花  ⑰ 清濁も貴賤も問わぬ花の苑       周天

春    ⑱  外套脱いで庭先に立つ        春芳

  《名残折表》
春    ⑲ 夏近したち鎌研いで草削り       茄言

雑    ⑳  未だ記憶に緒形弁慶         周天

雑    ㉑ 鴨川の五条大橋渡る僧         春芳

雑    ㉒  たすきの思いつなぐ都路       茄言

恋    ㉓ 先斗町芸妓に目と目合図する      周天

恋    ㉔  微笑み返す謎の美少女        春芳

恋    ㉕ 誘われて深みにはまる恋の果て     茄言

恋    ㉖  小指を嚙んで血のにじむほど     周天

秋・月  ㉗ 煌々とワイングラスを照らす月     春芳

秋    ㉘  本屋大賞読み切る夜長        茄言

秋    ㉙ 紅玉にナイフの刃先突き立てて     周天

雑    ㉚  強い酸味を活かしたレシピ      春芳

  《名残折裏》
雑    ㉛ 大盛りの飯屋にいつか返す恩      茄言

雑    ㉜  ふるさと銘菓トランクに詰め     周天

雑    ㉝ 茅葺きの類い希なる古い家       春芳

春    ㉞  雪解け水が山の春乗せ        茄言

春・花  ㉟ 振り返り花影に魅入る帰り道      春芳

春    ㊱  風やわらかに香り届ける       周天

    自  令和五年五月 六日
    至   同  五月十二日