三吟歌仙         

029 『雪を払う女将の巻』

  春芳 周天 茄言 三吟歌仙㉙ 
  『雪を払う女将の巻』

  《初折 表》
冬      ① 粉雪を小袖で払う女将かな      春芳

冬      ②  恨み顔して漏らす白息       周天

雑      ③ 背をかがめ開けた古木戸声出して   茄言

雑      ④  枯山水の庭園ゆかし        春芳

秋 月    ⑤ 大海に波きらめかせ望の       周天

秋      ⑥  夜長に描くソロで行く旅      茄言

  《初折 裏》
秋      ⑦ 晩秋の狂った風に背を押され     春芳

秋      ⑧  無法の町で呷るどぶろく      周天

恋      ⑨ 待ってると短いメール惚れ直し    茄言

恋      ⑩  砂に埋もれた初めての恋      春芳

恋      ⑪ 日記にもそのひとの名は伏せて書き  周天

雑      ⑫  過ぎし日読みて今日が過ぎ行く   茄言

夏 月    ⑬ 見上げれば蟹を抱えた夏の月     春芳

夏      ⑭  滝に打たれて煩悩を断つ      周天

雑      ⑮ スイスから大河は注ぐ北の海     茄言

雑      ⑯  リュック担いでロッテルダムへ   春芳

春 花    ⑰ 回れ風車花の絨毯敷きつめて     周天

春      ⑱  カイト吹かれてドーバー渡る    茄言

  《名残折表》
春      ⑲ 麗らかなアビィロードのカフェテラス 春芳

雑      ⑳  法被をまとい仲間入りする     周天

雑      ㉑ 遙か先気づいて見れば高齢者     茄言

雑      ㉒  前期後期と分かれる試験      春芳

恋      ㉓ 頬杖をつく横顔を窃視して      周天

恋      ㉔  告げると決めた朝は眩しく     茄言

恋      ㉕ バス停で微笑む君に投げキッス    春芳

雑      ㉖  行商の荷にもたれ居眠り      周天

秋 月    ㉗ 月を背に富豪をのせて光る線     茄言

秋      ㉘  身にしむ夜に体預けて       春芳

秋      ㉙ 馬の市手綱を引いてとぼとぼと    周天

雑      ㉚  トトロの歌が耳の奥から      茄言

  《名残折裏》
雑      ㉛ 物の怪の皮を干したる魔宮殿     春芳

雑      ㉜  鬼のいぬ間の洗濯日和       周天

雑      ㉝ 左中間抜けてサヨナラ青い空     茄言

春      ㉞  響く歓声春天衝いて        春芳

春 花    ㉟ 一本の指立て花の笑顔の輪      茄言

春      ㊱  利根の川瀬にはねる若鮎      周天


自  令和三年  十二月  七日
至   同    十二月 十二日