009 『寒明けの憂えの巻』
周天・茄言・春芳 三吟歌仙
『寒明けの憂えの巻』
《初折 表》
春 ① 世の憂えまだ晴れやらず寒の明け 周天
春 ② 浅き春にも先さす光 茄言
春 ③ 旅先で「都をどり」を垣間見て 春芳
雑 ④ 京の町屋にふと迷い入る 周天
秋・月 ⑤ 満月の家並みの影が袈裟に切り 茄言
秋 ⑥ 淀の河原で燃やす盆船 春芳
《初折 裏》
秋 ⑦ 厳島能の舞台にシテ紅葉 周天
雑 ⑧ 瀬戸の日暮れに口笛聞こえ 茄言
雑 ⑨ 正絹のあだなる姿白蛇抄 春芳
恋 ⑩ 入国を待つ漆黒の髪 周天
恋 ⑪ 恋人よコード押さえつ君想う 茄言
恋 ⑫ 愛を乞う影胸に潜めて 春芳
夏・月 ⑬ 遠花火音は届かず月の下 周天
夏 ⑭ 蚊を打ちながら飲む赤城山 茄言
雑 ⑮ 桂川岸辺の茶屋に三味の音 春芳
雑 ⑯ 旅の一座に飛白(かすり)の書生 周天
春・花・恋 ⑰ 去る船を風なく揺れて送る花 茄言
春・恋 ⑱ 麗しき夢海に流して 春芳
《名残折表》
春 ⑲ 青雲を見上げて空へ巣立ち鳥 周天
雑 ⑳ 大河悠々行く末包む 茄言
雑 ㉑ 歎異抄読んで聞かせる老作家 春芳
雑 ㉒ 博打と喧嘩に明け暮れる街 周天
雑 ㉓ 老いてなお生の証の槍登り 茄言
雑 ㉔ 着流しで行く吉原揚屋 春芳
恋 ㉕ ただ一つ変わらぬ思い三年越し 周天
恋 ㉖ 白粉透かして生肌震わす 茄言
恋 ㉗ 角だしの後ろ姿に胸騒ぎ 春芳
秋・月 ㉘ 女狐の尾は月の明かりに 周天
秋 ㉙ 湧く霧に妖気が誘う一人道 茄言
秋 ㉚ からすみつまみ観るサスペンス 春芳
《名残折裏》
雑 ㉛ 真贋を見分ける術を得んとして 周天
雑 ㉜ デカルト追いし自己の正体 茄言
雑 ㉝ コロナ禍で自然の光我癒やす 春芳
春 ㉞ ボッティチェルリの春の寿ぎ 周天
春・花 ㉟ 盤上に花の影落ち筋に入る 春芳
春 ㊱ 芽吹きの道で語る楽しさ 茄言
自 令和三年 二月 三日
至 同 二月 九日