051 『凝りほぐれゆく柚子湯の巻』
周天・茄言・春芳 三吟歌仙 51
『凝りほぐれゆく柚子湯の巻』
《初折 表》
冬 ① 一年の凝りほぐれゆく柚子湯かな 周天
冬 ② 香りほのかに行火(あんか)抱く夜 茄言
雑 ③ 孤児院で眠る孤児らに添い寝して 春芳
秋 ④ リンゴの唄が街に流れる 周天
秋・月 ⑤ 喧噪とネオンサインが隠す月 茄言
秋 ⑥ ホストクラブで歌う思秋期 春芳
《初折 裏》
雑 ⑦ 将来のスター夢見てオーディション 周天
雑 ⑧ 今日の自分に会いに道踏む 茄言
恋 ⑨ 路地裏で指笛吹いて君を待つ 春芳
恋 ⑩ 着てゆく服が決まらずに泣き 周天
恋 ⑪ 言い出せずクール装う自分責め 茄言
夏 ⑫ 悩み悩んで夏のベニスへ 春芳
夏・月 ⑬ 露台から運河に映る月眺め 周天
雑 ⑭ 明日はモンツァで赤のTシャツ 茄言
雑 ⑮ 血に染まる瓦礫の街でボランティア 春芳
雑 ⑯ 悪業滅す護摩の炎に 周天
春・花 ⑰ 焼け山に実生の花の芽を見つけ 茄言
春 ⑱ テントで過ごす暖かな夜 春芳
《名残折表》
春 ⑲ 鐘おぼろ眠りの中へ引き込まれ 周天
恋 ⑳ 罪と知りつつ逢瀬重ねて 茄言
恋 ㉑ 遠ざかる長い黒髪風に揺れ 春芳
恋 ㉒ 乱れて物を思う後朝(きぬぎぬ) 周天
雑 ㉓ 大戦を経てもカオスの人の性(さが) 茄言
冬 ㉔ 熱燗飲んで呂律回らず 春芳
雑 ㉕ 気がつけば終着駅に零時過ぎ 周天
雑 ㉖ 一夜の宿は物の怪館 茄言
秋・月 ㉗ 窓際で月の光で読む手紙 春芳
秋 ㉘ 美術展から入選の報 周天
秋 ㉙ 待ちかねた新蕎麦ありの店くぐる 茄言
雑 ㉚ 居酒屋巡り昨日も今日も 春芳
《名残折裏》
雑 ㉛ 不器用な男昭和の匂い立つ 周天
雑 ㉜ いまは昔の名こそ惜しけれ 茄言
雑 ㉝ 教会で説話を聞いて涙する 春芳
春 ㉞ 塔の上なる告天子の声 周天
春・花 ㉟ 菩提寺の花に見とれて時忘れ 春芳
春 ㊱ 継ぎし命を包む春の陽 茄言
自 令和五年 十二月 二十三日
至 同 十二月 二十七日