061『霞む古希の道標の巻』
茄言・春芳・周天 三吟歌仙61
『霞む古希の道標の巻』
《初折 表》
春 ① 行く道や古希の標(しるべ)に薄霞 茄言
春 ② 隣家の池の魚氷に上る 春芳
春 ③ 春場所にまたも座布団飛び交って 周天
雑 ④ 無心の勝ちと策は明かさず 茄言
秋・月 ⑤ 閣僚が悩み見上げる空に月 春芳
秋 ⑥ そぞろ寒さに首を縮める 周天
《初折 裏》
秋 ⑦ 秋うらら自己新かけて走り出す 茄言
秋・恋 ⑧ 長い黒髪爽やかに揺れ 春芳
恋 ⑨ ヨコハマの灯り見つめて腕の中 周天
恋 ⑩ あなたの胸の上で寝覚めて 茄言
雑 ⑪ 朝起きて鞄一つでモスクワへ 春芳
雑 ⑫ 赤の広場に鳩は少なく 周天
冬・月 ⑬ シベリアの凍れる土に冬の月 茄言
冬 ⑭ 春待つ島の白い街並み 春芳
雑 ⑮ 郵便夫いつも変わらぬ笑み浮かべ 周天
雑 ⑯ 駅のイカした小便小僧 茄言
春・花 ⑰ ゴルフ場カート道路に花吹雪 春芳
春 ⑱ 彼方へ飛ばす鶯の声 周天
《名残折表》
春 ⑲ バイク駆り襟裳の春を探す旅 茄言
雑 ⑳ 岬を削る潮騒の詩(うた) 春芳
雑 ㉑ 万博のあとに列島改造し 周天
雑 ㉒ ぽんぽこ化けて合戦いどむ 茄言
夏 ㉓ 風薫る球場内に打球音 春芳
夏・恋 ㉔ カップアイスにスプーン二つ 周天
恋 ㉕ 助手席の白きくるぶし盗み見て 茄言
恋 ㉖ 影重なりて渡る吊り橋 春芳
秋・月 ㉗ 山奥の独居は月を友として 周天
秋 ㉘ 長夜に悔いを綴る自分史 茄言
秋 ㉙ 秋の夕一人読書を楽しんで 春芳
雑 ㉚ ヒット映画の原作の味 周天
《名残折裏》
雑 ㉛ 父思い見返す坂の上の雲 茄言
雑 ㉜ 忍者が向かう梟の城 春芳
雑 ㉝ こっそりと推しのあと追うそこかしこ 周天
春 ㉞ 子らははしゃいでまだら雪踏む 茄言
春・花 ㉟ 花街道ゆく先々に人の笑み 周天
春 ㊱ 来賓席で祝う卒業 春芳
自令和七年三月 十六日
至 同 三月二十四日