062『寝るに寝られぬ短夜の巻』
春芳・茄言・周天三吟歌仙62
『寝るに寝られぬ短夜の巻』
《初折表》
夏 ① 本を読み寝るに寝られぬ短夜かな 春芳
夏 ② 網戸を抜けてかすか入る風 茄言
雑 ③ 甘辛のもんじゃの匂い立ちこめて 周天
雑 ④ あんぱん抱え走る坂道 春芳
秋・月 ⑤ 満月に浮かぶ自転車重ね見る 茄言
秋 ⑥ 空き缶くすね今年酒酌み 周天
《初折裏》
秋 ⑦ 泥棒に割られた窓に秋時雨 春芳
恋 ⑧ ハートを掴む鍵は手探り 茄言
恋 ⑨ さりげない一言の意味測りかね 周天
恋 ⑩ 金髪揺らすロスの踊り子 春芳
雑 ⑪ LAD日々の結果に湧く日本 茄言
雑 ⑫ ラスベガスには怪物降臨 周天
冬・月 ⑬ 草原の馬小屋照らす冬の月 春芳
冬 ⑭ 暖炉前では民話聞く子ら 茄言
雑 ⑮ 大なるは敢えて取るなと教えられ 周天
雑 ⑯ スタンフォードで学ぶ経営 春芳
春・花 ⑰ 咲き誇る花が小花を覆う罪 茄言
春 ⑱ 「六根清浄」お遍路唱え 周天
《名残折表》
春 ⑲ 陽炎に揺れる少年追いかけて 春芳
雑 ⑳ 大正池の青き水辺へ 茄言
恋 ㉑ 掬いとり潤すのどの動き見え 周天
恋 ㉒ 去り行く君に別れの言葉 春芳
恋 ㉓ 戯れのはずが離れて増す恋慕 茄言
雑 ㉔ 時はすべてに効き目もたらす 周天
雑 ㉕ リリーフのフォークが冴えるプロ野球 春芳
雑 ㉖ 落ちても拾うコメの一粒 茄言
秋・月 ㉗ 案山子には案山子の務め月仰ぐ 周天
秋 ㉘ 吹きつけたるはうそ寒き風 春芳
秋 ㉙ 老木も色葉散らして冬備え 茄言
雑 ㉚ 茶室に掛けた筆は貫之 周天
《名残折裏》
雑 ㉛ 〆切に焦ってペンを握りしめ 春芳
雑 ㉜ 破れかぶれの奇手が妙手に 茄言
雑 ㉝ 体重差ものともせずに背負い投げ 周天
雑 ㉞ 鏡に映る北の湖 春芳
春・花 ㉟ 海峡を越えて大地に花前線 周天
春 ㊱ 春満開の空は快晴 茄言
自令和七年五月 六日
至 同 五月十二日