019 『声聞き落ちる殻蝉の巻』
茄言・春芳・周天 三吟歌仙⑲
『声聞き落ちる殻蝉の巻』
《初折 表》
夏 ① 鳴く声を聞いて落ちるや殻の蝉 茄言
夏 ② 木立を抜けて仰ぐ夏空 春芳
雑 ③ 飲み会の知らせ久々舞い込んで 周天
雑 ④ 淡い墨絵の手紙添えられ 茄言
秋・月 ⑤ 明かり消し月の光で弾くピアノ 春芳
秋 ⑥ 虫のすだきを伴奏にして 周天
《初折 裏》
秋 ⑦ 爽やかな朝のコートにニューボール 茄言
雑 ⑧ 祭典巡り広がる波紋 春芳
恋 ⑨ ミスコンにまばゆき肢体惜しげなく 周天
恋 ⑩ 髪かき上げる所作もいとおし 茄言
恋 ⑪ あざとくも寝顔かわいいジャズシンガー 春芳
雑 ⑫ 収入源はネット配信 周天
冬・月 ⑬ 冬の月赤提灯の背を照らす 茄言
冬 ⑭ 汚れしままに凍つ神田川 春芳
雑 ⑮ 誕生日ケーキにロウソク立てながら 周天
雑 ⑯ オーロラ揺れる星降る夜空 茄言
春・花 ⑰ レター読みトロントニアン花の笑み 春芳
春 ⑱ メイプル芽吹く五大湖の岸 周天
《名残折表》
春 ⑲ 春光にのたり行く先瀑布待つ 茄言
雑 ⑳ マスクを外し漏らす感嘆 春芳
恋 ㉑ ディスタンス迷うことなく口づけて 周天
恋 ㉒ やっと出会えた連れになる人 茄言
恋 ㉓ 重ねても恋はいつでも初舞台 春芳
雑 ㉔ 座長芝居で巡るみちのく 周天
雑 ㉕ カッパ淵口上聞けば顔出すか 茄言
雑 ㉖ 座敷童子が住まう古民家 春芳
秋・月 ㉗ リノベしたカフェの窓から月を観て 周天
秋 ㉘ 夜寒わずかに忍び入る時 茄言
秋 ㉙ ひとひらの紅葉挟んで書を閉じる 春芳
雑 ㉚ 齢重ねて変わる解釈 周天
《名残折裏》
雑 ㉛ 比べては評価できない選択肢 茄言
雑 ㉜ サイコロ振って道を見極め 春芳
雑 ㉝ 任侠に憧れされど生真面目に 周天
春 ㉞ 軽くひらひら蝶が先行く 茄言
春・花 ㉟ 中空を花びらの舞い漂いて 周天
春 ㊱ 過ぎ去りし日々想う春の日 春芳
自 令和三年 七月 六日
至 同 七月 十一日