013 『清明に競う緑の巻』
茄言・春芳・周天 三吟歌仙⑬
『清明に競う緑の巻』
《初折 表》
春 ① 清明や競う緑に湧く力 茄言
春 ② 青天衝いて帰る鳥たち 春芳
春 ③ 憂国の志士も蚕の世話をして 周天
雑 ④ どどめ色より血の気色濃く 茄言
秋・月 ⑤ 海峡の激浪照らす満ちた月 春芳
秋 ⑥ 故郷を離れ長き夜は更け 周天
《初折 裏》
秋 ⑦ 吹かれても流されはせぬ赤とんぼ 茄言
雑 ⑧ 五番街にて住む部屋探す 春芳
恋 ⑨ オーディション挑むマリーの背を撫でて 周天
恋 ⑩ 別れの朝の二人の小径 茄言
恋 ⑪ 貧しくも愛の暮らしがなつかしく 春芳
夏 ⑫ 繕い目立つ蚊帳で都々逸 周天
夏・月 ⑬ 人散らす夕立過ぎて涼し月 茄言
雑 ⑭ ゲリラライブで推し燃え尽きて 春芳
雑 ⑮ 隠し撮り犯罪性を帯び始め 周天
雑 ⑯ 萎縮社会にりか子の笑顔 茄言
春・花 ⑰ 風誘う花を目で追う帰還兵 春芳
春 ⑱ 狙いすまして蜂の一刺し 周天
《名残折表》
春 ⑲ まっすぐを読んで振り抜く春予選 茄言
雑 ⑳ 瞼濡らして涙溢れる 春芳
雑 ㉑ 思ってもみない言葉を耳にして 周天
恋 ㉒ この人となら苦労できると 茄言
恋 ㉓ 四畳半甘い吐息に酔う夕べ 春芳
恋 ㉔ コロナで誰も来ない幸せ 周天
雑 ㉕ 潮風におもわず降りる無人駅 茄言
雑 ㉖ 気付けば謡い羽衣を舞う 春芳
冬 ㉗ 白足袋に血をにじませる稽古して 周天
雑 ㉘ 天下布武への夢は幻 茄言
秋・月 ㉙ 墨を擦り襖に月を描く画師 春芳
秋 ㉚ 大和盆地に鹿の声聞く 周天
《名残折裏》
秋 ㉛ 晩秋の阿修羅の眉間憂い帯び 茄言
雑 ㉜ 些細な居場所それが幸せ 春芳
雑 ㉝ 銭湯の一番風呂にとっぷりと 周天
春 ㉞ 日永背を干すそっと亀見る 茄言
春・花 ㉟ 万年の齢延ばして花祭 周天
春 ㊱ 聖なる山の峰麗しく 春芳
自 令和三年 四月 四日
至 同 四月 九日