008 『門松に微笑む女将の巻』
春芳・茄言・周天 三吟歌仙
『門松に微笑む女将の巻』
《初折 表》
新年 ① 門松に触れて微笑む女将かな 春芳
新年 ② 行く人問わず年始の会釈 茄言
雑 ③ 北斎が煙管片手に思案して 周天
雑 ④ 遙かに望む富士の高峰 春芳
秋・月 ⑤ 浮かぶ雲有明月に譲る空 茄言
秋 ⑥ 紅葉狩へと足の向くまま 周天
《初折 裏》
秋 ⑦ 行く道で色なき風の歌を聴く 春芳
雑 ⑧ 直登見上げ勇み刻む歩 茄言
恋 ⑨ 試験前手製のお守りポケットに 周天
恋 ⑩ 向かうホームに黒髪の女 春芳
恋 ⑪ 首筋に小さなほくろまじかに見 茄言
夏 ⑫ 素潜りをする沖縄の海 周天
夏・月 ⑬ 宝島定かに照らす夏の月 春芳
雑 ⑭ 飛行石指すラピュタはいずこ 茄言
雑 ⑮ 世のちりを洗い流して四万の宿 周天
雑 ⑯ 耳を澄ませてせせらぎを聞く 春芳
春・花 ⑰ 風立ちて花びら運ぶ水うれし 茄言
春 ⑱ 霞の中を帆掛け船ゆく 周天
《名残折表》
春 ⑲ 由比ヶ浜小袖を濡らす春時雨 春芳
恋 ⑳ カラコロ急ぐ下駄の踏み音 茄言
恋 ㉑ 何事も無いかのような顔をして 周天
恋 ㉒ ガラスに映る揺れる眼差し 春芳
雑 ㉓ 名作もオンデマンドに視聴萎え 茄言
雑 ㉔ この一瞬に賭ける若人 周天
雑 ㉕ 再びの栄誉を胸にジャブを打つ 春芳
雑 ㉖ 敗れて悟る足りぬは勇気 茄言
秋・月 ㉗ アポロ後の月に未来を仰ぎ見て 周天
秋 ㉘ 隔離部屋にて食う新豆腐 春芳
秋 ㉙ 稲揺らす風爽やかに街浄め 茄言
雑 ㉚ 闇の組織は未だうごめく 周天
《名残折裏》
雑 ㉛ 獄窓に己が罪過を詫びる朝 春芳
雑 ㉜ 核融合に覚醒する日 茄言
雑 ㉝ 移りゆく気分の波にたゆたいて 周天
春 ㉞ 棋戦を制し魚氷に上る 春芳
春・花 ㉟ 角曲がるごとに出で逢う花の精 周天
春 ㊱ まばゆい風に連凧およぐ 茄言
自 令和三年 一月 十一日
至 同 一月 十九日