004 『紅差すひつじ雲の巻』
茄言・周天・春芳 三吟歌仙
『紅差すひつじ雲の巻』
《初折 表》
秋 ① 夕陽差す紅色映えるひつじ雲 茄言
秋 ② 広瀬堤に並み寄るすすき 周天
秋・月 ③ ポスターを「京都の月」と貼り替えて 春芳
雑 ④ 参道歩くリアルを求め 茄言
雑 ⑤ バーチャルの美女軍団に囲まれて 周天
雑 ⑥ ディスコで踊るジャズシンガー 春芳
《初折 裏》
雑 ⑦ 休日はアウトバーンに髪流れ 茄言
恋 ⑧ 背中の温み頬に感じる 周天
恋 ⑨ 帯を解き官能に酔うマダムチャン 春芳
恋 ⑩ 薬の指はやはりこの人 茄言
雑 ⑪ かかりつけのマッドドクターうす笑い 周天
雑 ⑫ 赴く先は壇上伽藍 春芳
冬・月 ⑬ 熱燗に飲まれて月に般若みる 茄言
冬 ⑭ 凍てつく道を同行二人 周天
雑 ⑮ 縁石にタイヤ乗り上げ惑う朝 春芳
雑 ⑯ 回復なるかモーリシャス沖 茄言
春・花 ⑰ 俯瞰する水面に浮かぶ花筏 周天
春 ⑱ 春雷響き止まる筆先 春芳
《名残折表》
春 ⑲ 夏前の稲妻打ちの初稽古 茄言
雑 ⑳ 女流剣士に小手を取られる 周天
雑 ㉑ ヘアカット粋と野暮の差ミリ単位 春芳
雑 ㉒ 詰めの甘さの過去は切り捨て 茄言
雑 ㉓ 熟年の危機をなんとか乗り越えて 周天
夏・恋 ㉔ 今再びの恋を知る夏 春芳
夏・恋 ㉕ 滝の勢(せ)に勇みて君の藍に触れ 茄言
夏・恋 ㉖ 右手の痺れ明け易き夜に 周天
雑 ㉗ 一球目思いがけずに浮くボール 春芳
雑 ㉘ セレンディップの話をした日 茄言
秋・月 ㉙ 佳しとする御方はいずこ月に雁 周天
秋 ㉚ 律の調べを聞く奥座敷 春芳
《名残折裏》
秋 ㉛ 小窓から金木犀の微香入る 茄言
雑 ㉜ 思い出たどる詰め襟の日々 周天
雑 ㉝ 益荒男が希望を胸に集う庭 春芳
春 ㉞ 不断の春の気宇は雄大 茄言
春・花 ㉟ 開けたドア花が舞い込むLDK 春芳
春 ㊱ 赤い風船空のかなたへ 周天
自 令和二年 十月 十五日
至 同 十月 二十日