023 『アクエリを飲み干す残暑の巻』
春芳・周天・茄言 三吟歌仙㉓
『アクエリを飲み干す残暑の巻』
《初折 表》
秋 ① アクエリを二本飲み干す残暑かな 春芳
秋 ② ひと息つけば蜩の声 周天
秋・月 ③ 深山に月夜切り裂く剣振りて 茄言
雑 ④ 道場跡地今はマンション 春芳
雑 ⑤ 古のれん創業以来の味伝え 周天
雑 ⑥ 語り出しそな石の灯籠 茄言
《初折 裏》
雑 ⑦ 川沿いを歩いて探す江戸風情 春芳
恋 ⑧ 羽織姿のあだな襟あし 周天
恋 ⑨ 偶然を装い出会う蔵の道 茄言
恋 ⑩ 久しぶりねと小首傾げて 春芳
雑 ⑪ ガンジスの流れに輪廻受けとめて 周天
雑 ⑫ 不浄のままに海へと託す 茄言
夏・月 ⑬ シチリアの浜辺を照らす夏の月 春芳
夏 ⑭ ナポリの夜風灼けた素肌に 周天
雑 ⑮ ローマまで十二気筒の跳ね馬と 茄言
雑 ⑯ 京の通りを牛車で進む 春芳
春・花 ⑰ 清明の邸の花に虚と実と 周天
春 ⑱ 惑うことなく止まる蜜蜂 茄言
《名残折表》
春 ⑲ 麗らかな大草原に三姉妹 春芳
雑 ⑳ ロッキー山麓放牧の群れ 周天
雑 ㉑ オオカミの遠吠え聞いて銃構え 茄言
恋 ㉒ シャルウィダンスと誘う黒髪 春芳
恋 ㉓ 見つめ合う身を添わせるも離れるも 周天
恋 ㉔ 高まる波に任せて揺れて 茄言
冬 ㉕ 震災の瓦礫の街に細雪 春芳
冬 ㉖ ブルーシートにすきま風入る 周天
雑 ㉗ 先見えぬ不安をあおるギリシャ文字 茄言
雑 ㉘ 明けぬ里にも希望の光 春芳
秋・月 ㉙ 十六夜の月待ちかねて先ず一献 周天
秋 ㉚ 重ねる杯に秋寒うれし 茄言
《名残折裏》
秋 ㉛ 老いてなお見果てぬ夢をみる夜長 春芳
雑 ㉜ 尾行振り切り秘密の基地へ 周天
雑 ㉝ プール割れ熟年レスキュー出動す 茄言
春 ㉞ 春雷響き迫る濁流 春芳
春・花 ㉟ 呑まれても咲いて誇らし岩の花 茄言
春 ㊱ 東風吹き通る三山の水辺 周天
自 令和三年 九月 七日
至 同 九月 十四日