010 『巣を編む夫婦鳩の巻』
茄言・周天・春芳 三吟歌仙
『巣を編む夫婦鳩の巻』
《初折 表》
春 ① この春も巣編む枝(え)探す夫婦(めおと)鳩 茄言
春 ② 仰ぎ見やれば風光る木々 周天
春 ③ 六甲で羊の毛刈る場面見て 春芳
雑 ④ 芦屋の浜でイーゼル立てる 茄言
秋・月 ⑤ 大陸をめざす舳先を照らす月 周天
秋 ⑥ かりがね寒き上海の朝 春芳
《初折 裏》
秋 ⑦ 長江をのぼり三峡秋の雨 茄言
雑 ⑧ 年来の夢私財なげうち 周天
冬・恋 ⑨ 枯れ野にて唐装仙女の肩を抱き 春芳
恋 ⑩ 戯れ越えて無二となる人 茄言
恋 ⑪ 温泉の湯を弾くかのような肌 周天
雑 ⑫ 煙たなびく火の山峠 春芳
夏・月 ⑬ 桟橋の賑わい終えて夏の月 茄言
夏 ⑭ 光を透かし水母(くらげ)ただよう 周天
雑 ⑮ 上野駅公園口にシート張る 春芳
雑 ⑯ 登頂前夜一人見る夢 茄言
春・花 ⑰ 花ふぶき噂の男舞い戻り 周天
春 ⑱ 外套脱いで昼酒あおる 春芳
《名残折表》
春 ⑲ 追懐は湖上遙かな蜃気楼 茄言
雑 ⑳ バブル以来の株価三万 周天
雑 ㉑ ボディコンのあざとかわいいジャズシンガー 春芳
雑 ㉒ フルスイングの肩たくましき 茄言
恋 ㉓ 年上の女房けなげに寄り添って 周天
恋 ㉔ 数寄屋橋にて約す再会 春芳
恋 ㉕ 船出せば波立つものと知りし恋 茄言
雑 ㉖ 水脈(みお)もやがては消えて夕凪 周天
秋・月 ㉗ 釣り人の帰り支度を月照らす 春芳
秋 ㉘ 尾灯もけむる晩秋の道 茄言
秋 ㉙ 山陰(さんいん)にオロチの目玉柿二つ 周天
雑 ㉚ 口元隠し微笑む女給 春芳
《名残折裏》
雑 ㉛ 制服でアルカイックの仏見る 茄言
雑 ㉜ 清張が解く古代史の謎 周天
雑 ㉝ 閉店後手帖に記す客の数 春芳
春 ㉞ 酔いて歩けば路地に東風入る 茄言
春・花 ㉟ ひとひらの花の影おく裏の窓 春芳
春 ㊱ 三山はすべて春の装い 周天
自 令和三年 二月 十八日
至 同 二月 二十三日