012 『揚雲雀の見る景色の巻』
周天・春芳・茄言 三吟歌仙⑫
『揚雲雀の見る景色の巻』
《初折 表》
春 ① 汝(なれ)の見る景色知りたや揚雲雀 周天
春 ② 三山の峰に残る冠雪 春芳
春 ③ 雛納め包む薄和紙優しくて 茄言
雑 ④ 着物姿の母思い出す 周天
秋・月 ⑤ 卓上をほのかに照らす夕月夜 春芳
秋 ⑥ 微風に迷う溢蚊(あぶれか)の声 茄言
《初折 裏》
秋 ⑦ 家を捨て世を捨てひとり濁り酒 周天
雑 ⑧ ブルーシートが心苛む 春芳
雑 ⑨ ともかくも地球は回り朝が来る 茄言
恋 ⑩ 拗ねて目線を逸らす新妻 周天
恋 ⑪ 耳元の甘いささやき心地よく 春芳
恋 ⑫ 瞳の奥の本気見定め 茄言
冬・月 ⑬ 深草に足跡とどむ冬の月 周天
冬 ⑭ 積雪深く閉ざされた古都 春芳
雑 ⑮ かごの鳥逃がした子供叱れずに 茄言
雑 ⑯ 周庭女史の弾む日本語 周天
春・花 ⑰ 盤上に竜王制す花の影 春芳
春 ⑱ 英のコートに春疾風吹く 茄言
《名残折表》
春 ⑲ げんげ田の道とぼとぼと里帰り 周天
雑 ⑳ 日没間近海崖に立つ 春芳
雑 ㉑ 悠然と大王イカの通る闇 茄言
雑 ㉒ ネオンの街に活気戻って 周天
雑 ㉓ ティファニーの店先覗くフェアレディ 春芳
恋 ㉔ キュートなカット君は妖精 茄言
恋 ㉕ あどけなき笑顔見たさに嘘をつき 周天
恋 ㉖ ゼミの合間に渡す付け文 春芳
秋・月 ㉗ 月写す静水嫌い石投じ 茄言
秋 ㉘ 瓢箪揺らす風のまにまに 周天
秋 ㉙ 秋の宵沁みる夜汽車の汽笛聞く 春芳
雑 ㉚ アリスの唄が教える居場所 茄言
《名残折裏》
夏 ㉛ 虹を追いワンダーランドに迷い込み 周天
雑 ㉜ 時短命令背く居酒屋 春芳
雑 ㉝ 言われても第一ボタンしめぬ人 茄言
春 ㉞ 日永に談笑尽きることなし 周天
春・花 ㉟ 赤信号黄色菜の花青い空 茄言
春 ㊱ アルバムに見る帰り来ぬ春 春芳
自 令和三年 三月 二十日
至 同 三月 二十五日