011 『冴返る朝に筆執る老爺の巻』
春芳・周天・茄言 三吟歌仙⑪
『冴返る朝に筆執る老爺の巻』
《初折 表》
春 ① 冴返る朝に筆執る老爺かな 春芳
春 ② 雪解けを待つ県境の山 周天
春 ③ 小諸から霞む千曲を見下ろして 茄言
雑 ④ 避難場所にて語るあとさき 春芳
秋・月 ⑤ 御岳を目指して歩む月の峰 周天
秋 ⑥ 芒の原に千の風吹く 茄言
《初折 裏》
秋 ⑦ 尼削ぎの童女の肩に露時雨 春芳
恋 ⑧ 周囲惑わす年頃となり 周天
恋 ⑨ 夕陽背に壁見て二人影遊び 茄言
恋 ⑩ 告る相手はミニスカミスキャン 春芳
雑 ⑪ 退官の講義を終えて一服し 周天
雑 ⑫ 草鞋黙って履く山頭火 茄言
冬・月 ⑬ 俗念を嚙み砕きたる冬の月 春芳
冬 ⑭ 凍るピレネー越えて巡礼 周天
雑 ⑮ イベリアにレコンキスタが刻む過去 茄言
雑 ⑯ モンマルトルで風に吹かれて 春芳
春・花 ⑰ 舞う花にモデルの姿見え隠れ 周天
春 ⑱ 目だけ動いて岩の亀鳴く 茄言
《名残折表》
春 ⑲ かんざしの粋なる芸妓春の宴 春芳
雑 ⑳ 人力車ゆく隅田川べり 周天
雑 ㉑ 月島で乾杯ひそめもんじゃ焼く 茄言
雑 ㉒ 小さな庭に並ぶ鉢植え 春芳
夏・恋 ㉓ 団扇風後れ毛揺らし昼下がり 周天
恋 ㉔ いつものベンチ来る娘に焦がれ 茄言
恋 ㉕ 引き出しの奥に埋もれたラブレター 春芳
雑 ㉖ 記憶のかけらつなぎ合わせて 周天
秋・月 ㉗ 野面積み月にざわめく石の群れ 茄言
秋 ㉘ 天空仰ぎ農夫稲干す 春芳
秋 ㉙ 笛吹きも代替わりして秋祭 周天
雑 ㉚ 飛行機雲の薄れゆく跡 茄言
《名残折裏》
雑 ㉛ やさしさに包まれていた遠き日々 春芳
雑 ㉜ EV加速フリーウエイを 周天
雑 ㉝ 山見上げ大川小の庭に立つ 茄言
春 ㉞ 袴姿で臨む卒業 春芳
春・花 ㉟ 満開の花に安堵の寒冷紗 茄言
春 ㊱ 風を背に受け雛の巣離れ 周天
自 令和三年 三月 五日
至 同 三月 十一日