002 『風をとらえし秋茜の巻』
茄言・周天・春芳 三吟歌仙
『風をとらえし秋茜の巻』
《初折 表》
秋 ① 立つ風を羽にとらえて秋茜 茄言
秋 ② 稲の穂なみの揺れる跡形 周天
秋・月 ③ グラドルを月の浜辺と差し替えて 春芳
雑 ④ 踏み出すごとに砂の音聞く 茄言
雑 ⑤ 輝ける生命は向かう新世界 周天
雑 ⑥ たどり着けるかこの運ゲーム 春芳
《初折 裏》
雑 ⑦ 生きるもの食って生きるも生きるもの 茄言
雑 ⑧ ルンバは動く右に左に 周天
雑 ⑨ ブルペンで投球術を練る夕べ 春芳
雑 ⑩ 握りかコース迷う晩餐 茄言
恋 ⑪ カルティエのリングをそっとしのばせて 周天
恋 ⑫ 手を取り踊るウィンナワルツ 春芳
冬・月・恋 ⑬ 月明かり冷気満つる夜愛を告げ 茄言
冬 ⑭ 吐く息白く遠回りして 周天
雑 ⑮ 原稿を書いては破るカフェの隅 春芳
雑 ⑯ ケラケラ笑うJK眩し 茄言
春・花 ⑰ カラフルにネイルアートの花ざかり 周天
春 ⑱ 惰眠貪る暖かな午後 春芳
《名残折表》
春 ⑲ いつか見る我が子をいだく春の夢 茄言
雑 ⑳ 映りを工夫リモート画面 周天
雑 ㉑ 宅配もドローンで届く近未来 春芳
雑 ㉒ 介護ロボット我の尻拭く 茄言
雑 ㉓ 人はみな糞ひり虫と悟っては 周天
雑 ㉔ 『浮浪雲』読むセーヌの河畔 春芳
恋 ㉕ いつもより香るシャネルにときめいて 茄言
恋 ㉖ 声にならない声に聞き入る 周天
冬・恋 ㉗ 忘れ得ぬ絹のスカーフ今もなお 春芳
雑 ㉘ 輝く糸が錦織りなす 茄言
夏・月 ㉙ 三線(さんしん)の音に誘われ夏の月 周天
夏 ㉚ 空き家の軒で揺れる風鈴 春芳
《名残折裏》
夏 ㉛ 蚊帳の中遠く島唄聞いて寝る 茄言
雑 ㉜ ふと思い出す亡き母のこと 周天
雑 ㉝ 年老いて読み書き覚え出す手紙 春芳
春 ㉞ ひと文字ごとに春光あたる 茄言
春・花 ㉟ 薄紅の茣蓙(ござ)と見紛う花の下 春芳
春 ㊱ 歩みのさきに霞む谷川 周天
自 令和二年 九月 二十三日
至 同 十月 一日