015 『菖蒲の葉の巻』
周天・茄言・春芳 三吟歌仙⑮
『菖蒲の葉の巻』
《初折 表》
夏 ① 菖蒲の葉鉢に巻く湯や薄明り 周天
夏 ② しみる日焼けに癒やしの魔除け 茄言
雑 ③ 休業し滋賀の都に帰省して 春芳
雑 ④ 忍者の里に並ぶ窯元 周天
秋・月 ⑤ 月光に変化(へんげ)しそうな置き狸 茄言
秋 ⑥ 律の調べに酔う銀狐 春芳
《初折 裏》
秋 ⑦ ポーカーで騙し騙され窓に露 周天
雑 ⑧ 波止場の博徒負けて風切る 茄言
雑 ⑨ いつの日かクルーズ船で旅に出て 春芳
恋 ⑩ 突然すぎる再会のとき 周天
恋 ⑪ 閉じ込めたはずの炎がまた燃えて 茄言
恋 ⑫ 改札口で君を待つ日々 春芳
冬・月 ⑬ 図書館は八時閉館冬の月 周天
雑 ⑭ 街の明かりに子らの声する 茄言
雑 ⑮ ぬくもりに心和んで足軽く 春芳
雑 ⑯ 千代田通りをはしご酒して 周天
春・花 ⑰ 花満つる桃源郷に我忘れ 茄言
春 ⑱ たどりつけない麗しの国 春芳
《名残折表》
春 ⑲ 蜃気楼富山の女の指先に 周天
雑 ⑳ 輪島塗師の筆の精緻さ 茄言
恋 ㉑ ほつれ髪巻いて束ねて一人旅 春芳
恋 ㉒ 宿場宿場で浮き名を流す 周天
恋 ㉓ 今日もまたあなた好みの紅の色 茄言
雑 ㉔ ルーツ辿って王墓の森へ 春芳
雑 ㉕ 副葬のダイヤは既に奪われて 周天
雑 ㉖ 陶の兵馬が怒りに目覚め 茄言
秋・月 ㉗ こっそりと月を見上げて路飲みする 春芳
秋 ㉘ 故郷の新酒五臓六腑に 周天
秋 ㉙ でんとした赤城の山も惜しむ秋 茄言
雑 ㉚ 心に響くせせらぎの音 春芳
《名残折裏》
雑 ㉛ 本町の一筋裏は別世界 周天
雑 ㉜ ドロン飛ばせば瓦にトタン 茄言
雑 ㉝ クロニクルマダムの言葉章にして 春芳
春 ㉞ 霞は消えて跡形もなく 周天
春・花 ㉟ 庭先にゆめまぼろしか花吹雪 春芳
春 ㊱ 吉の予感を春風はこぶ 茄言
自 令和三年 五月 五日
至 同 五月 十一日