025 『銀杏にはしゃぐ子らの巻』
茄言・春芳・周天 三吟歌仙㉕
『銀杏にはしゃぐ子らの巻』
《初折 表》
秋 ① 散る銀杏つかんではしゃぐランドセル 茄言
秋 ② さやけき朝に響く歌声 春芳
秋・月 ③ 揺れ惑う大都会にも月出でて 周天
雑 ④ 飛び出す路地に影は優しく 茄言
雑 ⑤ 薄闇にノビ師の姿垣間見え 春芳
雑 ⑥ 二代目という重荷背負えば 周天
《初折 裏》
雑 ⑦ あそこまで続く急登仰ぐ峯 茄言
恋 ⑧ 胸のボタンをひとつはずして 春芳
恋 ⑨ 終電でそのまま帰す気の迷い 周天
恋 ⑩ 節度示して本気伝える 茄言
夏 ⑪ コロナ禍で憂きこと多し夏の宵 春芳
夏 ⑫ 冷酒すっきり心鎮めん 周天
夏・月 ⑬ 草刈りを終えて見上げる月涼し 茄言
雑 ⑭ 老いてなお咲く美男俳優 春芳
雑 ⑮ ガンマンがメガホン提げてハリウッド 周天
雑 ⑯ ハドソン川へ機長の機転 茄言
春・花 ⑰ ニューヨーク花の名所を駆け抜けて 春芳
春 ⑱ 影朧ろなる若き弁護士 周天
《名残折表》
春 ⑲ のどかさに堀にさざ波立てる風 茄言
雑 ⑳ ドジでノロマなスチュワーデス 春芳
恋 ㉑ 泣いた子をあやすしぐさの優しくて 周天
恋 ㉒ ノースリーブの絹肌眩し 茄言
恋 ㉓ ジャズバーでサックス奏でラストラブ 春芳
冬 ㉔ 指先凍え仕留め損なう 周天
冬 ㉕ 枯れ山に虎の李徴の吠える聞く 茄言
雑 ㉖ 阪神ファンの祈りむなしく 春芳
雑 ㉗ 捕手上がりぼやきしつこさ身上に 周天
雑 ㉘ 狸どうしの化けの駆け引き 茄言
秋・月 ㉙ マリアナの奇跡の島を照らす月 春芳
秋 ㉚ 台風兆すフィリピン沖に 周天
《名残折裏》
秋 ㉛ 石油載せ航路はるばる秋の海 茄言
雑 ㉜ 浅瀬や機雷ものともせずに 春芳
雑 ㉝ 密林に底なしの沼黙示録 周天
春 ㉞ 霞む先へと民は追われて 茄言
春・花 ㉟ 笑う声呼び合う声の花迷路 周天
春 ㊱ 心和ます暖かな風 春芳
自 令和三年 十月 八日
至 同 十月 十四日