016 『穂先なびく麦秋の巻』
茄言・周天・春芳 三吟歌仙⑯
『穂先なびく麦秋の巻』
《初折 表》
夏 ① ブロンドの穂先なびくや麦の秋 茄言
夏 ② バラをアーチに造る庭前 周天
雑 ③ 海崖でじょんがら節を耳にして 春芳
雑 ④ 集まる風が大羽根まわす 茄言
秋・月 ⑤ 成田屋の名優像に月射して 周天
秋 ⑥ 釣瓶落としに陰る境内 春芳
《初折 裏》
秋 ⑦ 忍びよる老いに棹さす秋日和 茄言
恋 ⑧ 変わらぬ姿そっと目で追う 周天
恋 ⑨ モンシェリと呟く女に肩寄せて 春芳
恋 ⑩ 高鳴る鼓動が共振するとき 茄言
雑 ⑪ 言葉など不要なほどに息が合い 周天
雑 ⑫ 劇団起こし募る俳優 春芳
冬・月 ⑬ 演じ終え寒月淡く帰路照らす 茄言
冬 ⑭ なりすまし詐欺指も凍えて 周天
雑 ⑮ ATM操作間違え電話する 春芳
雑 ⑯ 付箋に書いて貼るパスワード 茄言
春・花 ⑰ 物忘れ不安も忘れ花の宿 周天
春 ⑱ 記憶の底に麗しき日々 春芳
《名残折表》
春 ⑲ 春天に翔平アーチ天使舞う 茄言
雑 ⑳ 約束時刻すでに過ぎゆき 周天
恋 ㉑ 腕を組み雨傘さしてシェルブール 春芳
恋 ㉒ ワイパー止めて見つめる二人 茄言
恋 ㉓ 僕だけの君を求めて埠頭まで 周天
雑 ㉔ 瓦礫の海に波光きらめき 春芳
雑 ㉕ 闇の街鼓舞して回る岬の灯 茄言
雑 ㉖ 飢えも怯えもさらば脱北 周天
秋・月 ㉗ 国境の壁を乗り越え仰ぐ月 春芳
秋 ㉘ 長夜に描く反骨アート 茄言
秋 ㉙ 松茸を喰らいしゃぶると小百合詠み 周天
雑 ㉚ バイトしながら明るく生きて 春芳
《名残折裏》
雑 ㉛ デン助の人情劇に笑った日 茄言
雑 ㉜ 男の背なに浮かぶ哀しみ 周天
雑 ㉝ 生前の思い出語るカフェの隅 春芳
春 ㉞ 名を知り咲くか忘れな草は 茄言
春・花 ㉟ 舞い落ちる花に埋もれて眠る里 春芳
春 ㊱ 囀る声は遠く近くに 周天
自 令和三年 五月 二十一日
至 同 五月 二十七日